作品アーカイブ (目次)

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一足の草鞋

 


 草鞋が踏む度に木が軋む。帳は降りて、周囲は暗い。橋の先にある景色は闇に隠れていた。

 足元を照らす提灯。握る手に力が込もる。端が見えないまま歩を進めていく。


 湿りを帯びた、砕ける音。


 手摺りを掴んで視線を落とした。抜けた底に足首が埋まる。灯りを持ち直し、隙間を覗く。


 小さな波紋に、草鞋が浮かんでいた。


 揺れて流れ、視界から外れていく。脚を持ち上げると、割れた先端が布地をなぞった。破れ、脛に紅い筋を引く。


 溜め息を吐き、皮膚を撫でた。

 温く、滑る。


 照らした傷に木端が刺さっていた。濡れた指で摘み、少し眺める。下を向き、開いた穴を見つめた。


 視線が、合う。

 藻の匂いがした。


 着物は重く、水が口に入り込む。腕を振り回し、飛沫を散らせて。


 波紋の上に浮かぶ草鞋。


 淡い光を辿ると、穴から覗く眼があった。流され、視界から外れていく。


 脚を引き抜き、歩き出した。


 裸足のまま、渡り終える。

 両脛に紅く筋が垂れていた。


 ──── 木端を二つ、握りしめて。

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