作品アーカイブ (目次)

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等しい欠片


 乾いた音が連なって、幾重にも重なり続けていた。気怠い体。背は丸まり、集中できない。

 思考を靄が包み込む。キーボードから指を離し、目頭を押さえた。ふと、溢れる。


『俺は何をしているんだろう。この仕事は何のためだ』


 何度も押して、思い出す。


『......金を、得る為』


 打鍵の音が響く部屋。誰もが席に座り、モニターを見つめている。指はせわしなく動き続けて。


 明るい照明が、皆を照らしていた。無表情に画面を見つめる、同じ顔を。


 ──生きるために。養うために。


叱責する声が聞こえてくる。打鍵の音と混ざりながら。混濁する響きの中で、同僚の一人が項垂れていた。


 ──我慢しなければ。


 窓の外で雲が流れている。緋色に染まった空を。喧騒に浮かぶ笑い声。風に攫われ、散っていく。


 疑うことなく、キーを叩いていた。皆と同様に。ぼんやりと、同僚の顔を眺めた。


 同じだ。皆、同じ。項垂れ、震えるあの男も。叱責を続けるあの男も。


 終業のベルが鳴り響いた。


 反射的に仰け反り、視界が広がる。

打鍵の音が止む。叱責の声も。ぞろぞろと頭を下げて、帰っていく。


 一人が振り返って、口を開いた。


「お前も早く帰れよ」


「俺に言ったんだよな?お前じゃなくて」


 眉を顰める同僚。首を傾げて、ドアを閉じた。


 残響の中、頭を振る。鞄を掴み、席を立つ。靄はかかったままだ。無意識に外に出た。月光と街明かりが交錯する。


 夜風が紙屑を転がし、前髪を揺らす。街灯に群がる羽虫を見つめて。


 ──同じだ。


 視線を外し、歩道に踏みだす。思考の靄が霧散した。


 疑いもなく往き交う人々。その雑踏へ紛れに行く。群衆に溶けた男。一部となって、ただ巡る。


 ────違いなど、ない。刻まれた跡を辿るだけで。

コメント

  1. 間近で視ているような臨場感がありました。

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  2. コメントをありがとうございます。
    臨場感を感じていただけたとのこと。とても嬉しく思います。
    また気軽に覗いてくだされば、幸いです。感謝いたします。ありがとうございました。

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