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記憶の欠片


 窓のカーテンを押し上げる。穏やかな陽光と共に、涼風が入り込んだ。空気を入れ替え、清浄を満たして。


 テーブルに敷かれたクロスが捲れた。黒く薄い手が、箸を掴む仕草をしている。食卓の上には何もない。繰り返し、黒い顔に運ぶ。


 隣の部屋で、テレビの音がした。


 男が画面を見ながら、ワイシャツのボタンをかけている。リモコンを手に取り、ボタンを押す。窓を閉めて、玄関に向かう。


 靴を履いている時、鳴き声がした。振り返ると、窓の外に猫がいる。三毛の柄をしばらく眺め、ノブを握った。


 鉄の音が響き、静寂が拡がる。


 塀の上で前脚を舐め、窓越しに覗いていた。縦長の瞳孔が、残影をじっと捉えている。頭上の枝が擦れて、紅葉が舞い降りた。


 揺らめきながら立ち上がり、玄関に向かう。

しばらく揺蕩い、食卓の椅子に戻って来た。黒く薄い手が、箸を掴む仕草をしている。


 猫はじっと見つめて、鳴いた。

 風を震わせて。


 ──黒い影。置いてきた、断片。


 暖かい日差しを浴びながら、顔を上げる。

眩しく拡がる蒼い空に、白い塊りが幾つも流れていた。目を細め、喉を鳴らす。


 黒い影が、ほどける。閉じた窓を抜けて、ゆっくりと三毛の身体に溶け込んで。


 塀から飛び降り、窓を見つめる。枯葉を踏み締め、匂いを嗅ぐ。香りと共に、景色が浮かんだ。


 餌を探しに歩いていく。


 ────焼きついた欠片。目には、見えない。




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