作品アーカイブ (目次)

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ずれた距離



 テーブルの下で両手を合わせた。ぎゅっと握り、爪が食い込む。椅子を前後に揺らせながら。⁠針がつられる。壊れた時計の奥で。


 顔を上げると母が瞳を覗き込む。腰に手を当て、動こうとしない。


「言うことがあるんじゃない?」


 俯いて口を尖らせた。紅くなった頬が膨らむ。握った手から、擦れる音がした。


 風が流れる。カーテンと髪を撫でて。母は溜め息を吐いた。テーブルを挟んだ椅子。背もたれを掴んで、引く。


 ゆっくりと座り、テーブルに両肘を乗せる。

眉間に皺を寄せて。視線は、硬く。


 受け止めて、大きく息を吸い込む。


「......僕じゃない」


 両手を机に乗せた。机が軋む。壊れた時計が、傾いて。


 母は視線を逸らせた。

 車が走る音が近づき──遠ざかる。

 横目で窓を見て、向き直った。僕は掠れた声を絞り出す。


「言うこと、ないの?」


 母が目を細める。小さな声で言葉を紡いだ。


「......ごめんね」


 外から笑い声が響く。

 僕が、瞳を覗いていた。鼻から息を吸い込み、吐き出して。


 席を立ってドアに向かう。ノブを掴み、振り返った。


 ────ポケットのネジが、鈍く響いた。



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