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因果の果てに



月光を映す刃に見惚れていた。握った柄の先、峰の反りに指を這わす。波紋に浮かぶ眼が、血走っている。白髪混じりの総髪は乱れ、ほつれた着物が風に靡く。黒い生地が暗闇に溶けていた。


土を踏む草鞋の音が近づく。笑い声と、僅かな酒の匂い。


口が緩み微笑を描く。ゆっくりと地を踏み締める。視線の先に、二人いた。


擦れる衣が静止する。髷を結った男が口を開く。もう一人からは、酒の匂いがしない。目に古傷がある男。


「何者じゃ?」


酒臭い息を吐きながら、柄に触れる。鞘が少し揺れた。


「......お前にとって、何者だろうな。」


傷の男は腕を組んで、退がる。髷の男が首を傾げた。目を細め、笑った。


「お主、死にたいようじゃな。」


鞘から抜く。肩が揺れ、土が跳ねた。下段から眼前に伸びる刃。体を開き、躱す。鼻先を掠め、髪を散らした。歪に笑い、投げるように腕を振り抜く。髷に刃が潜り込む。血飛沫が顔を濡らし、顎先から切先が抜けた。酒の匂いが鉄に染まる。ゆっくりと膝を折り、うつ伏せに倒れた。血溜まりが広がる。


「侍は、妻の仇だ。......皆殺しにしてやろう。」


──頭に響く。繰り返される、女の断末魔。


総髪が風に煽られ、逆立つ。刀を振り、斑点が地面に散らばる。荒い呼吸を整えず、切先を向けた。傷の男が髪を掻き分け、骸を見下ろす。


「大した迫力だが......未熟。我流か。」


総髪の下、充血した瞳が紅く輝いた。獣の声が漏れる。傷の男が静かに首を振り、柄に触れた。


「何があったかは知らぬが......楽にしてやろう。」


総髪が傷の男に刃を突き出す。伸び切った腕に風が走った。刀を握った腕が宙を舞う。鞘から抜かれた一閃が、舞い戻る。肩から腹を抜け、臓物が溢れた。両断された体が、ゆっくりとずれていく。崩れ落ち、土埃が舞う。


総髪の骸を一瞥した。一言、呟く。


「仇か。虚しいものだ。」


目の古傷をさする。二つの亡骸を残し、歩き出す。月光を映す総髪の瞳。充血が白く溶け、濁っていく。


───因果の果てに、死が訪れた。後悔は、ない。

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