作品アーカイブ (目次)
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薄闇に流れる風が、紐に結んだ紙を煽る。風鈴が揺れ、澄んだ音が鳴った。若者が騒ぐ声と響きながら。部屋を照らす電灯に蠅が停まり、脚を擦る。
座布団の上で、テーブルに手を伸ばした。
掴んだコップに酒を注ぎ、口に運ぶ。唇を湿らせ、つまみを頬張る。咀嚼しながら眺めた。
開いたアルバムに並んだ写真。生命力に満ちた、若い笑顔。細いが、引き締まった体。硬い紙を捲る指が、震えている。
──これは本当に、俺なのか?
顔を上げると、姿見が目に入る。
鏡に映す、中年の太った男。くたびれた表情と視線が絡む。深く刻まれた皺と唇が、僅かに動いた。
『お前は、何度も入れ替わっている。細かく、死にながら』
頬を撫でると、瘡蓋が剥がれた。
酒臭い息に眉を顰めると、鏡の眉も動く。
──ずっと、繋がっていたはず。同じ俺が。ただ、歳をとっただけだ。
蠅の羽音が響き、アルバムが囁く。
『あんたと俺は、違う存在だ』
無数の声が反響する。
『その記憶は、確かか?』
風鈴が、鳴る。若者の声と共に。
鏡の男が呟いている。
『あやふやだろう?そりゃそうだ。何度も、入れ替わってるんだから。それも、もうすぐ終わる』
瞼が、ゆっくりと降りてきた。テーブルの酒が倒れ、写真を濡らす。染み込んだ液体が、黒く滲んだ。
電灯から、蠅が落ちた。閉じた瞼に。朝焼けの光が、部屋を照らす。
────風鈴が、揺れた。澄んだ音を残して。
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