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山頂の霧



倒木に腰掛けていた。霧が拡がり、景色が滲む。陽光は遮られ、空は灰色に塗られていた。


登山靴が泥に汚れている。ザックに手を伸ばし、行動食を取り出す。棒状のチョコレートを歯で挟み、噛み切る。ゆっくりと咀嚼した。甘味が、疲れを癒す。


膝に手を添え、立ち上がった。


冷たい風。通り過ぎる際に、全てを撫で、煽り、揺らした。 胸が、ざらつく。


『あいつ、いつも一人だよな。』


顔を顰め、首を振る。歯を食いしばって、進む。


登山道を逸れると、枯木が乱雑に並んでいた。枝がしなる。枯葉が土に積もって。むせかえるような、自然の匂い。


──頂上まで、まだあるのか。


浅く息を吐きながら、踏み締める。柔らかく湿った土に、靴跡を残していく。


虫の鳴き声が、時折聞こえる。鳥の囀りも。

胸に触れて、微笑む。周囲を見渡し、山を見つめた。


──孤独じゃない。


木の軋み。

虫の鳴き声。

鳥の囀り。


男の呼吸。


全てが重なり、響き合う。区別など、ないように。

顎先から一滴、溢れ落ちる。


最後の歩が、届いた。


稜線が描く、境界。天と地を分けて。霧に隠されたそれが、伝える。僅かに届いた光が、男を照らして。


大きく息を吸い込み──叫んだ。


木霊が答える。自然を宿し、肯定を含んで。


言葉は、もう聞こえない。


───山を覆う、霧。その先には、鮮やかな景色が広がっている。


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