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走馬燈の奥で


昼下がりの日差しが、男を照らす。影が路面に伸び、大きく揺れる。


息を切らせて、走っていた。何度か人にぶつかり、怒鳴られる。脚を止めることは、しない。


ガードレールが続く歩道の先に、信号が見えた。赤く点灯している。足踏みを繰り返し、周囲を見渡す。


汗ばんだシャツが、体を冷やしていた。手首を見ると、14時20分。舌打ちして、駆け出した。


クラクションが鳴り続ける。音に向くと、車が迫っていた。運転手の顔がはっきりと見える。


──死。


猛スピードで、ゆっくりと近づく車。前面が、腰に触れる。衝撃が滲むように広がり、浮き上がる体。


痛みと共に、映像を映した。懐かしい、光景を。


────

虫取り網を振り回し、蝶を追いかけている。真剣な眼差しの、少年。


振り返って、語りかける。声は、聞こえない。


少女が頷いたあと、笑顔で手首を見せた。14時25分。時刻を示した、腕時計。帰りを促す。


少年は首を振り、瞳が滲む。


──妻は......


遠くから、サイレンが聞こえる。鉄錆の匂いが、鼻を掠めた。


────

アスファルトが頬を敷いている。粘つく赤。頭を起こすと、糸を引いて千切れた。


粉々になった硝子が散らばっている。

秒針が、細かく震えて。


力が抜け、倒れ込んだ。

自然と笑みが浮かぶ。会いたかった顔が、そこにあったから。


妻が、手を差し伸べた。

握り返し、静かに立ち上がる。


『間に合わなかった。......お前も。』


頬を濡らして、黙っていた。口を開く代わりに、夫を抱きしめる。影を重ねて。


──還ろう。


───担架が運ばれていく。もう、そこには居ない。

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