作品アーカイブ (目次)

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向日葵の匂い

 


 雲が重なり、漂っている。風に流され、ゆっくりと千切れていく。隙間から覗くと、蒼空が広がっていた。


 ──誰か、呼んでる。


 振り返ると、父の笑顔。土を踏み、足跡を連ねる。挟むように、草花が生い茂っていた。


 自然の香りに混ざって、煙草の匂いが鼻を掠める。温かい匂い。


 向日葵が陽射しに向けて、花びらを揺らす。視線を辿ると、光が景色を覆い尽くした。

瞼が降りていく。


 少年の瞳から、零れ落ちた。何滴も。

母の声が、遠くから聞こえる。


────

 目を開けると、月明かりが照らす。薄闇に差し込む光。


 母が見つめていた。腕をゆっくりと伸ばし、そっと頬に触れる。指先で、跡をなぞって。


 ──もう、会えない。


 指を濡らす。


 湿った枕の端。その先に、写真がある。

 同じ、笑顔。


「忘れないでしょう?」


 滲んだ母が、紡いだ言葉。

 鮮明に映った時、静かに頷く。


 ────忘れない。笑顔と、匂いを。

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