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8月, 2025の投稿を表示しています

作品アーカイブ (目次)

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  更新通知⇨ RSSで新作を受け取る *文章にAIを一切使用していません。自分の感性だけで書きたいからです。曲と画像はAIで作成しています。 ─最新─              「筆の先で」        境界 「積まれた煉瓦」      感情 「枯葉と砂」        日常 「線の先は」        境界 ─ピックアップ─ テーマ  時間 「重なる景色」 ─テーマ別─ ─境界─       十四作品 ─時間─           七作品 ─循環─       十三作品 ─感情─           十一作品 ─万有─           七作品 ─価値観─   十五作品 ─日常─           十一作品 ─断片─           四作品 ─無─               三作品 ─掌編─    「筆の先で」         境界 「積まれた煉瓦」       感情 「越えた後」         境界 「シリアルを咀嚼して」    感情   「街の跡」          日常 「旋回する夜」        日常 「閉じた瞼」         境界 「瓦礫の理由」        境界 「配慮の有無」        価値観 「銀の牢獄」         境界 「重なる瘡蓋」        境界 「見えない顔」        日常 「神木の瞳」         価値観 「最後の理性」        感情 「月光に照らされて」     感情 「重なる景色」        時間 「境界の先で」        循環 「寄り添う枯葉」       日常 「いやし」          循環 「編まれゆく造形」      循環 「ずれた距離」        日常 「刻まれた断片」    ...

狐狼の傷跡 三章『傷痕』第四話「戸山流」

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   山西省・古都太原。城壁が四角く囲い、分厚い門上には楼閣が見える。門をくぐると、風が吹き、土を巻き上げる。一帯が黄土色に覆われ、街全体を塗り潰していた。  城壁の下に立ち並ぶ、棚子の小屋。崩れた煉瓦と泥を固めた煉瓦を積み上げ、木板を立てかけて造られている。地面は湿った黒い泥で覆われていた。  朱いチャイナドレスの女が、背筋を伸ばして歩いている。並んだ家屋の中で、大きな建物があった。石造で出来ている。黒塗りの板塀で囲われていた。塀を抜けて玄関を横切り、松が生えた庭園を横切って行く。池を越えると、巻藁が見える。その横に縁側の廊下に腰掛けた男が居た。茶を啜り、女を見る。 「凛か。どうした?」  朱鳳凛が頭を下げた。白髪混じりの髪を、肩まで伸ばした和装の男──田上十蔵に。 「死合いの相手が見つかりました。もう少し、準備に時間がかかりますが」  腰を上げ、顔の皺を深く刻む。傍に置いた軍刀を掴んだ。巻藁に近付き、柄を握る。 右腕が弧を描き、刃が下から斜めに閃く。 戸山流抜刀──逆袈裟斬り。断たれ、僅かにずれる。音は、しない。  獅子おどしが、鳴った。 「楽しめるだろうな?」  鞘に納めると、澄んだ音がした。向き直る。眼光が、朱鳳凛を射抜いた。細い腕を組み、視線を外して薄い唇を開く。 「......ええ。楽しめます。歩法を教えました」  しゃがれた笑い声が響き、松に留まっていた鳥が枝を蹴った。 「待つとしよう。儂が敗れることを期待しろ。足りなければ、教えてやれ」  鬢の毛を垂らし、顔を上げた。踵を返して歩き出す。背中に、声が飛んだ。 「凛。儂に暗殺の仕事が入っておる。暫くおらん。その間に仕上げてやれ」 「わかりました。また、来ます」  振り返らずに砂利を踏む。乾いた空気が、唇を乾燥させていた。

狐狼の傷跡 三章『傷痕』第三話「歩法」

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   鶏が鳴き、太陽が悠然に昇る。薄暗い中を、浮浪者が千鳥足で歩いていた。歌っていると、地面を揺する音が響く。紅く染まった顔を向け、聞こえた路地を覗いていた。変わった服を着た男と、朱いチャイナドレスの女が戦っている。   勁を込めずに拳を突き出す。鬢の毛が靡いて、空を切った。朱い身体が左掌を顔の前に伸ばし、右掌を胸の前に置く──龍形。  半身で軸を保ち、緩やかに横に回り込む──走圏。細い腕が螺旋を描き、勁を纏う。両腕を拡げ、旋回した──葉底蔵華。  胸に迫る掌を男が左手で受け、右手を上げて払った──順纒絲。捌かれた女が背後に回り込む。両手を握り、左手は頭、右手は胸を狙って反転する──反背捶。男が振り向いた時、拳は眼前で制止していた。  口を開けて見ていた浮浪者が、大きく息を吐いてその場を去って行く。  宿の裏で、白蓮と朱鳳凛が対峙している。視線を重ねて、スリットの脚を指差す。 「......それが必要だ」 「この歩法を、走圏と言います。本来なら龍形を覚えなければいけません」 「必要なら、覚えよう」  唇を硬く結んで胸を抑える。傷が、疼いた。  抑える手を見つめて、視線を外す。切れ長の目が白蓮の顔に定まる。 「......白蓮。あなたはその構えのまま歩法を取り入れた方がいいかもしれませんね。身体の軸は真っ直ぐ通っているようですから。走圏で躱し、絶紹を放てれば勝機はあるでしょう」  笑みを浮かべて、抑える手を下ろした。腰を落とし、右掌を伸ばす。左拳を腰に添えて。内気を巡らし、静かに円を描いて回る。震脚が地を揺るがす。伸ばした腕に、勁が乗らない。虎爪を型取る掌底──  細い目を見開き、顎に手を添えた。 「何度も繰り返してください。歩法は出来そうですね」  薄い唇に引かれた紅が微笑む。 「ああ。動きは覚えた」 「軸は真っ直ぐ通ってましたが、震脚の際にズレてましたね。また、来ます」  真上から降り注ぐ日差しが、白蓮を照らしていた。会釈する影に、影が重なる。顔を上げた瞳に、朱い背中を映していた。 続きは▶️ 三章『傷痕』第四話「戸山流」

狐狼の傷跡 三章『傷痕』第二話「契約」

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   宿の屋根を、雨粒が叩いている。窓硝子にぶつかり、露となり、垂れて──零れる。その繰り返しを、眺めていた。   頬に触れると、腫れはもう無くなっている。高床から飛び降り、右掌を眼前に置く。息を吐きながら伸ばし、内気を練り、勁が走る。足から腰、突き出した左掌へ。空気が、歪んだ。  両脇を締めて、両拳を顔の前に置く。ステップを刻み、肘から直線に伸ばし、直ぐに引いた。 「ボクシングか」  馬鉄柱が音も無く背後に立っている。 「田上十蔵。剣術の達人だ。八極拳の直線的な動きじゃ、懐に入る前に斬られるだろうな」  身体を回し、拳の甲が鉄柱の鼻に吸い込まれる。弁髪が少し揺れた。空を切り、鉄柱の右拳が鼻先で止まっていた。 「フットワークなぁ。お前にはそれ、合ってなさそうだけどな」 「あんたは使えるじゃないか。まだ慣れてないだけだ」  階段を踏む音がする。何度か繰り返し、ドアが開いた。店主の顔が覗いていた。 「女が来てるぞ。白蓮を呼んでくれって」  顔を見合わせ、階下に向かう。朱いチャイナドレスの女が、テーブル席で茶を啜っていた。 テーブルに置いて、にこりと微笑む。鬢の毛を二つ垂らして会釈する。 「身体は癒えたようですね」 「ああ。もう戦える」  白蓮をじっと見つめ、鉄柱に視線を移す。 「あなたは、勝てると思いますか?」 「正直キツイだろうな。白蓮は素手、田上は軍刀。しかも、剣術の達人だ」  雨粒が宿を細かく叩き続けている。連続する音の中で、白蓮は静かに鳳凛を見ていた。自分の拳を眺め、また視線を戻す。朱い裾を揺らして、歩み寄って来た。 「八極拳の絶紹と八卦掌の歩法を組み合わせれば、チャンスはあるでしょう。学びますか?」 「田上に不利になる事を、何故」  視線を留めたまま、目を細めた。女の鬢の毛が、僅かに跳ねた。 「私では倒せないからです」 「田上の仲間じゃないのか?」  切れ長の目が白蓮の瞳に映り込む。薄い唇に、微笑を讃えて。 「学びますか?これが条件。死合いの報酬は、革袋三つ分支払います」  弁髪を振って豪快に笑い、肩を叩いた。 「おう。決まりだな」  分厚い手を払い退けて、着流しを正す。深く、頭を下げた。 「朱鳳凛。よろしく頼む」 「では、明日から。此方こそよろしくね。白蓮」  高く澄んだ声。店主に細い指を三本立てて、お茶を頼んだ。鉄柱は白酒を注文する。  鳥の囀りが響いてい...

孤狼の傷跡 三章『傷痕』第一話「仇」

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    刀身を伝い、流れて行く。切先に溜まった丸い粒が膨らみ、零れ落ちた。畳を紅く濡らし、深く沈んで。引き抜かれ、支えを失い仰向けに倒れた。眼は見開かれ、虚空に向く。少し、口を開いた。くぐもった、掠れた声。 「田上──」  男が握っていた刀が、畳に跳ねて転がった。 「一人にはならん。家族共々送ってやるからな」  軍刀を振り、滴を飛ばす。畳に幾つも染みを残し、歩いて来る。  少年を庇い、覆い被さる女が震えていた。身体が、動かない。 「情けない小僧だ。守られてるだけか」  刀身を傾け、上段に構える。薄い唇を線に結んで。 「一刀だ」  閃く残像が網膜に焼き付く。刃が女の身体を通り抜け、少年の肩に潜り込む。腰から抜けた切先を返し、鞘に納めた。目の前に両断された骸が横たわり、瞳が虚空を映す。    混ざり合う血溜まりに浸されながら、鋭く澄んだ音を聞いていた。 ────  僅かに澄んだ音が鳴る。視界の端で、鉄柱が革袋を持って座っていた。着流しが湿り、総髪が濡れている。 傷が疼いて胸を抑えた。顔を顰め、深く息を吸い込んだ。 「酷くうなされてたな。こいつはお前のだ。受け取れ」  両手で抱える程の大きさだが、鉄柱の巨大な手で鷲掴みにされていた。ゆっくりと身体を起こし、受け取る。重く、硬い。 「これは?」 「賭け試合の報酬と、鉄柱さんがあなたに賭けて得たお金ですよ」  朱いチャイナドレスを着た女が、薄い唇を広げて微笑んでいた。切れ長の奥で白蓮を映す。 「誰だ?」 「朱鳳凛と言います。ヴォルフとの試合を拝見しました」  革袋を傍に置き、女──朱鳳凛を見た。白く細い腕が、滑らかな軌道を描く。胸に掌を添えて、鬢の毛を垂らす。 「あんたが田上を知ってるのか?」 「田上との死合いを望まれますか?」  立ちあがり、鳳凛に詰め寄る。肩に触れた瞬間、白い細腕が円を描く。細い指が腕に絡まり、背を下に押される。膝から力が抜け、冷たい床に片手を着いた。掴んでいた腕を離し、朱い裾が僅かに靡く。 「心が乱れてますね。それに、身体も」    分厚い手が腰に触れた。抱えられ、ベンチに寝かされる。浅い呼吸を繰り返す中で、背中で揺れる弁髪を映していた。 「八卦掌か。見事なもんだ」 「......いえ。では、療養して下さい」 「また、来ます。報酬の交渉はその時に」  睨みつける白蓮に被りを振り、ドアに向かって靴音を刻む。...

孤狼の傷跡 二章『仲間』第九話「朱鳳凛」

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  歩き去る人波の渦に、女が佇んでいた。深い朱で染められたチャイナドレス。長い髪を後ろに結っている。控室に向かい、足を踏み出す。スリットから覗く引き締まった細い両脚が、硬く澄んだ音を交互に鳴らす。  人が捌けた広い部屋を進み、金網の横を通り過ぎる。細い通路に入り、突き当たりのドア前で立ち止まる。ドア越しに声が漏れ聞こえた。ノブに手をかけ、軽く捻る。  カール・ヴォルフがベンチに座り、胸を抑えていた。その傍に居る弁髪の巨漢と視線が合う。 「田上十蔵を知ってる女だ」  ヴォルフが顎で示す。弁髪の男が瞳を覗いてくる。 「見たことあるな。あんた」 「一度、会いましたね」  結った髪から溢れる鬢の毛を垂らし、会釈した。 「朱鳳凛と言います。汽車での振る舞い、見事でした。田上との死合いをご希望ですか?」 「馬鉄柱だ。俺は別にやりたくねぇ。賭け試合見てたろ?あいつに聞かねぇと」 「あの青年ですか。田上と会う資格はありそうですが、おそらく殺されると思いますよ」  葉巻を咥えて、マッチを擦る。揺らめく火が、先を焦がす。紫煙を吐き出し、蒼い目を細めた。 「珍しいな。老婆心か?俺は約束を守る。田上もあの小僧に興味を持つはずだ。会わせてやれ」  切れ長の目を閉じて、息を吐く。ゆっくりと瞼を上げ、鉄柱に視線を合わせる。 「一度本人と話しましょうか。その時に値段交渉もします」  鉄柱がヴォルフに向き直り、両手を上げた。 「金がいるのか?そりゃねぇだろ。約束に無かったぜ」 「芝居は辞めろ。わかってるんだろう?小僧に支払う金の値段交渉だ。田上は強者と死合がしたい。俺が選りすぐった相手を斡旋する。俺の取り分は4割だ」  胸を抑えて咳き込むヴォルフを見て、鉄柱の口端が吊り上がる。何度も頷き、手を叩いた。 「正直になったな。良い商売だ。賭け試合の選手がそのうちいなくなっちまいそうだ」 「いくらでもいるさ。強者はな」  鉄柱が朱鳳凛に向けて片目をつぶる。 「案内するぜ。白蓮の元にな」  朱鳳凛が薄い唇に微笑を湛え、踵を返してドアに向かう。朱い裾が僅かに靡く。長くしなやかな指がノブを包み、静かに開いた。  馬鉄柱が後に続き、閉じた部屋に乾いた音が響く。咳き込む男が、残されていた。 続きは▶️ 三章『傷痕』第一話「仇」