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孤狼の傷跡 二章『仲間』第九話「朱鳳凛」



 歩き去る人波の渦に、女が佇んでいた。深い朱で染められたチャイナドレス。長い髪を後ろに結っている。控室に向かい、足を踏み出す。スリットから覗く引き締まった細い両脚が、硬く澄んだ音を交互に鳴らす。

 人が捌けた広い部屋を進み、金網の横を通り過ぎる。細い通路に入り、突き当たりのドア前で立ち止まる。ドア越しに声が漏れ聞こえた。ノブに手をかけ、軽く捻る。


 カール・ヴォルフがベンチに座り、胸を抑えていた。その傍に居る弁髪の巨漢と視線が合う。

「田上十蔵を知ってる女だ」

 ヴォルフが顎で示す。弁髪の男が瞳を覗いてくる。


「見たことあるな。あんた」

「一度、会いましたね」

 結った髪から溢れる鬢の毛を垂らし、会釈した。

「朱鳳凛と言います。汽車での振る舞い、見事でした。田上との死合いをご希望ですか?」


「馬鉄柱だ。俺は別にやりたくねぇ。賭け試合見てたろ?あいつに聞かねぇと」

「あの青年ですか。田上と会う資格はありそうですが、おそらく殺されると思いますよ」


 葉巻を咥えて、マッチを擦る。揺らめく火が、先を焦がす。紫煙を吐き出し、蒼い目を細めた。

「珍しいな。老婆心か?俺は約束を守る。田上もあの小僧に興味を持つはずだ。会わせてやれ」

 切れ長の目を閉じて、息を吐く。ゆっくりと瞼を上げ、鉄柱に視線を合わせる。

「一度本人と話しましょうか。その時に値段交渉もします」


 鉄柱がヴォルフに向き直り、両手を上げた。

「金がいるのか?そりゃねぇだろ。約束に無かったぜ」

「芝居は辞めろ。わかってるんだろう?小僧に支払う金の値段交渉だ。田上は強者と死合がしたい。俺が選りすぐった相手を斡旋する。俺の取り分は4割だ」


 胸を抑えて咳き込むヴォルフを見て、鉄柱の口端が吊り上がる。何度も頷き、手を叩いた。

「正直になったな。良い商売だ。賭け試合の選手がそのうちいなくなっちまいそうだ」

「いくらでもいるさ。強者はな」


 鉄柱が朱鳳凛に向けて片目をつぶる。

「案内するぜ。白蓮の元にな」

 朱鳳凛が薄い唇に微笑を湛え、踵を返してドアに向かう。朱い裾が僅かに靡く。長くしなやかな指がノブを包み、静かに開いた。


 馬鉄柱が後に続き、閉じた部屋に乾いた音が響く。咳き込む男が、残されていた。



続きは▶️三章『傷痕』第一話「仇」

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