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狐狼の傷跡 三章『傷痕』第三話「歩法」

 


 鶏が鳴き、太陽が悠然に昇る。薄暗い中を、浮浪者が千鳥足で歩いていた。歌っていると、地面を揺する音が響く。紅く染まった顔を向け、聞こえた路地を覗いていた。変わった服を着た男と、朱いチャイナドレスの女が戦っている。

 勁を込めずに拳を突き出す。鬢の毛が靡いて、空を切った。朱い身体が左掌を顔の前に伸ばし、右掌を胸の前に置く──龍形。


 半身で軸を保ち、緩やかに横に回り込む──走圏。細い腕が螺旋を描き、勁を纏う。両腕を拡げ、旋回した──葉底蔵華。


 胸に迫る掌を男が左手で受け、右手を上げて払った──順纒絲。捌かれた女が背後に回り込む。両手を握り、左手は頭、右手は胸を狙って反転する──反背捶。男が振り向いた時、拳は眼前で制止していた。


 口を開けて見ていた浮浪者が、大きく息を吐いてその場を去って行く。


 宿の裏で、白蓮と朱鳳凛が対峙している。視線を重ねて、スリットの脚を指差す。

「......それが必要だ」

「この歩法を、走圏と言います。本来なら龍形を覚えなければいけません」

「必要なら、覚えよう」

 唇を硬く結んで胸を抑える。傷が、疼いた。


 抑える手を見つめて、視線を外す。切れ長の目が白蓮の顔に定まる。

「......白蓮。あなたはその構えのまま歩法を取り入れた方がいいかもしれませんね。身体の軸は真っ直ぐ通っているようですから。走圏で躱し、絶紹を放てれば勝機はあるでしょう」


 笑みを浮かべて、抑える手を下ろした。腰を落とし、右掌を伸ばす。左拳を腰に添えて。内気を巡らし、静かに円を描いて回る。震脚が地を揺るがす。伸ばした腕に、勁が乗らない。虎爪を型取る掌底──


 細い目を見開き、顎に手を添えた。

「何度も繰り返してください。歩法は出来そうですね」

 薄い唇に引かれた紅が微笑む。


「ああ。動きは覚えた」

「軸は真っ直ぐ通ってましたが、震脚の際にズレてましたね。また、来ます」


 真上から降り注ぐ日差しが、白蓮を照らしていた。会釈する影に、影が重なる。顔を上げた瞳に、朱い背中を映していた。




続きは▶️三章『傷痕』第四話「戸山流」

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