作品アーカイブ (目次)
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一人、ベンチに腰掛けていた。ほつれた服の袖から覗く手は、黒く汚れている。膝に置いた袋を弄り、パンを掴んだ。皺だらけのビニールが、擦れた音を鳴らす。
日焼けした顔の前に取り出し、じっと見つめた。唇を舐めて、一口齧る。咀嚼しながらペットボトルに手を伸ばした。
喧騒が行き交う歩道を眺め、蓋を捻る。蒼空から注がれる光を、水が反射していた。
日差しを影が遮る。顔を上げ、目を細めた。男が頭を下げている。指先をパンに向けて。
頷いて微笑み、袋を差し出す。受け取って去っていく背中。飲み口を咥え、喉を湿らす。カルキの臭いが僅かにした。
小さく息を吐き、俯いて目を閉じる。
靴音が近付いて来た。
瞼を開く。
皺だらけのビニール袋が目の前で揺れていた。先程の男が微笑んでいる。ポケットから紙幣を取り出し、差し出して。
分厚い束。
男の微笑み。
──視界が滲んだ。
被りを振り、顔を両手で覆う。喧騒が遠ざかる。ゆっくりと立ち上がり、頭を下げた。
顔を上げて視線を合わせる。
静かに揺らして。
────首を、左右に。
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