作品アーカイブ (目次)

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配慮の有無



 薄暗く、狭い部屋に満たされていた。己の汚物の臭いが。仕切りのない便器と、薄い布団が敷かれた寝具。ドアには小さな窓が一つ、あった。


 ──もう、何年だ。


 寝転んで、見つめる。所々茶色く変色した天井。染みを数えている内に、瞼を閉じていた。



────


 鋭いナイフを握っている。女がテーブルの肉をフォークで刺す。口に運んで噛もうとした時、背後から振り下ろした。先端が首に潜り込んでいく。勢いよく吹き出す鮮血。


 顔が、濡れた。


 椅子が倒れ、女が床に転がる。跨って、何度も突き刺す。目が合った。口から涎を垂らし、瞼はただ開いている。天井を、見つめていた。



────


 ──染みの数は、幾つだっけ。


 小窓が開き、声が聞こえた。看守が入って来る。身体中をまさぐられ、手首を拘束されて。4人に囲まれ、連れ出された。


 廊下を歩く靴音が、反響している。格子のついた車。乗せられ、エンジン音が響く。


 連れられた部屋は、清掃された跡が残っている。布団も真新しい。告げられた通り、もう時間はないのだろう。看守の一人が、口を開いた。


「何が食べたい?」


「分厚い、ステーキをくれ。焼き加減はレアだ」


 看守が短く笑い、鼻を鳴らす。頷いて部屋から出ていく。重い音が響いた。ベッドに腰掛け、腕を組む。口には微笑が浮かんでいた。

 

 ──また、肉が食える。


 ドアの向こうで、束になった金属が擦れている。硬く澄んだ音が鳴り、ドアが開いた。看守が集まり、中央に牧師が居る。低い声が、旋律を奏でた。


 ──誰のためだ?あいつのためか?


 声が途切れ、看守が入って来た。両脇に挟まれ、廊下を進む。通された部屋には、食事が用意されていた。分厚い、ステーキ。


 噛むたびに、浮かぶ。

 咀嚼するたびに、その顔が。


 唇を袖で拭うと、赤い筋を引く。袖を舐めると、看守が手を叩いた。


「もういいだろう。行くぞ」


 立ち上がり、明るい部屋に連れられた。中央にロープが垂れ下がっている。輪を作って。


 目に黒い布を巻かれた。手を引かれて、顎に通す。小さく、呟いた。


「あいつも俺も、運が悪いな」


 足下が開き、首が絞まる。乾いた音が聞こえて──


 ────舌を突き出し、揺れていた。

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