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未来の記憶



机の落書きに、指を這わせる。なぞりながら頬を置いた。ひんやりとして、少しざらつく。

セーターの袖口に毛玉が幾つか見えた。周囲のざわめきを感じながら、瞼を閉じる。教室と、乾いた冬の匂い。どこか懐かしい、匂い。


───

目覚ましが鳴り響いた。目を擦り、時計を何度も叩く。腕を伸ばして、欠伸した。

窓から差し込む光に目を細める。カーテンの揺れが風に巻き付く。


夢を見ていた。懐かしい記憶。思い出せない。頭を振って、視線を移す。妻が置いた、テーブルのコップ。湧き上がるコーヒーの湯気。香ばしい匂いを纏い、立ち昇る。


ハンガーに手をかけ、Yシャツに袖を通す。ボタンを留めて、ズボンを履く。席に腰掛け、熱い液体を口に含んだ。苦味が広がり、それを飲み込む。


───

誰もいない教室。カーテンが揺れている。落書きをなぞりながら、想像していた。思い描くのは、未来の自分。就職して、結婚して──


カバンから取り出した缶コーヒーを口に含む。冷たく、甘い。自分の妻を思い出す。髪が長くて、顔立ちは......目が大きくて、まつ毛は......


瞼が、重くなる。目を閉じて、思い出す。


───

妻が弁当を渡してきた。まじまじと見つめる。髪が長くて、口が小さい。目は大きくて、まつ毛が長い。鼻は少し低くて......


「遅れるよ。お弁当、忘れてるし。」


ずっと前から知ってる顔。しばらく眺めていた。妻のセーター。毛玉を摘んで、千切る。


「毛玉はいいから。......ほんとに遅れるよ?」


──ああ、そうか。思い出した。


微笑んで、ドアを開けた。乾いた冬の匂いに、教室の匂いが重なる。首を傾げた妻が、手を振った。


「いってらっしゃい。」


───想像と記憶が交錯する。干渉の先に、今を映した。

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