作品アーカイブ (目次)
眼下では空を仰ぐように伸ばされた、無数の手が不規則に揺れている。群衆の一部が咀嚼する肉の匂いと、焦げる木の煙が混ざり合っていく。
男の足元から炎が這い上がり、全身を包み込んだ。群衆の笑い声と男の叫びが、煙と交わり滲んでいく。
残された黒い塊が崩れ、灰となって風に攫われていった。
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風に吹かれながら、灰が群れをなして漂っていた。道筋を辿り、散り散りにほどけていく。土に染み込んで、草に溶け込んでいった。
藍色に輝く空の隙間には雲が漂っている。
雲間から届く陽光に照らされて、草はどこまでも伸びていった。草に乗っていた卵が弾けて、芋虫が這いだす。柔らかくうねる体で草にしがみつき、草の輪郭が削られていく。
芋虫と草に大きな影がかかった。陽光が遮られ、風を切り裂く音が横切る。影は空に昇っていき、跡には削られた草だけが揺れていた。羽ばたく音が遠ざかっていく。
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淡い茜色の空が、燃えるように広がっていく。夕暮れの中で褐色の翼が短くはばたき、上昇した。木の枝を掴んで、翼を僅かにはばたかせる。灰色の頭を小刻みに揺らしながら、芋虫を喉に流し込む。首を振ってから、枝を蹴った。
僅かに翼を羽ばたかせた瞬間、灰褐色の体から赤い液体が散らばる。褐色の羽が散って、舞い降りて。
刻まれた跡をなぞりながら、螺旋を描いて下に吸い込まれた。地面に跳ねたあと、横たわる。虚となった瞳には何も映っていない。土に血が滲んでいく。
銃口から硝煙が細く伸びていく。草を踏みしめて近づいていった。腕を伸ばして、灰褐色の尾を掴む。腰の袋に放り込んで、銃を背中に担いだ。
男は腹をひと撫でして、その場をあとにした。
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煙突からは絶え間なく煙が吐き出されていた。散らばる星の瞬きに吸い込まれて、霧散していく。
部屋の中で咀嚼音が静かに鳴っていた。パチパチと弾ける炎が揺らめき、静かな夜に彩りを与えている。
ヒヨドリの骨を片付けて、りんごを齧る。瞼が重くなってきて、立ち上がった。
シーツに触れた瞬間、部屋が揺れた。玄関から木が割れる音が響いた。視線を送ると、ドアが二つに割れて床に倒れている。床が繰り返し軋み、武装した兵士が入ってくる。
男は目を見開いて叫んだ。体を抑えられて、腕を固く縛られる。荒い吐息が頭に響き、滲んだ汗が滴となって床を濡らす。視界を横切る炎が灰を巻きあげ、瞳に焼きついていた。
暖炉の灰が、炎と巡る。
────煙が螺旋を描いていく。星の輝きへ辿り着くまで。
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