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仮面



ピエロが徘徊していた。悲鳴が幾重にも重なり、街に反響する。手に持った血濡れた斧が、ぬめる雫をぽたぽた垂らす。


視線の先に、両手を合わせてしきりに頭を振る男がいた。股間が湿り、染みが広がっていく。肩を揺らした時、空気が爆ぜて分断された。


広場に首のない死体が転がる。流れる液体から、鉄錆びとアンモニアが混ざった臭いがした。


──俺は、怪物だ。怪物は、こうあるべきだ。


血溜まりの中をゆっくりと歩く。粘つく足音が、赤い靴跡を残していた。

顔に施した化粧に、蠢く斑点が繋がっていく。


月明かりが届かない路地裏。穴が開き、汚れた服を着た男が壁にもたれて座っていた。

視界の端に認めると、口角が上がる。角を曲がって入っていく。


グリップを握り直し、近づく。薄汚れた男が振り向いた。淀んだ瞳がピエロを映していた。

男は欠伸をしながら両腕を頭上に伸ばした。ピエロが斧の刃を地面に打ち付け、首を傾げて口を開く。


「怖くないのか?」


血液と生ゴミの匂いが交錯した空間で、男は薄目を斧に向けた。頭を掻きながら言葉を紡ぐ。


「悲鳴がうるさかったが。......お前さんのせいか。まあ、今日でよかったよ。」


立ち上がって、尻を払う。煙のように舞い上がった土埃が辺りを漂う。

月明かりが路地に差し込む。顔を上に向けて、夜空を眺める男。


握ったグリップに力を込める。地面に沈んだ刃が引き抜かれた。


男の服が膨張する。瞳に月光を宿し、肉体が生地を引き裂いた。灰色の体毛が全身に広がって。呻きながら口と鼻が前にせり出す。はみ出た鋭い牙から涎が滴り、尾骶骨が伸びていた。


笑みを浮かべて眺めていた。

ピエロの体が軋んだ音を鳴らす。血管が浮き出た太い腕を、横に薙いだ。

握り手から伸びる斧が、男の腹に食い込む。灰色の体毛が刃先を包み、弾いていた。木が折れ、刃が円を描いて壁に刺さる。


口端が耳に届きそうだ。歪な微笑を讃えながら、握った指を離した。グリップが地面に跳ねて、転がっていく。ピエロの瞳に闇が広がる。


男は人狼となり、天に向かって吠えた。長く響く澄んだ声が、満月に昇って溶けていく。尾は箒を模して土を掃く。


脚の爪が地を削り、鋭利な風を走らせた。

突き出す指から生える、五本の爪。ピエロに迫り、胸を貫く。ゆっくりと腕を抜いた。吹き出す鮮血が人狼を染める。


瞳の闇が霧散した。萎んだ体が横たわる。傍に裸の男が立っていた。


「勘違いしたか?お前は、人間だ。」


ピエロが痙攣している。目尻から滴る液体が化粧に滲み、溶かす。剥がれた白粉が散らばっていく。震える唇を僅かに動かした。


「俺は......人間で、いいんだな。」


男は血を拭い、壁に背をあずける。座り込んで、欠伸した。


─── サイレンの音が静寂を破る。街の鼓動が聞こえていた。

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