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9月, 2025の投稿を表示しています

作品アーカイブ (目次)

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  更新通知⇨ RSSで新作を受け取る *文章にAIを一切使用していません。自分の感性だけで書きたいからです。曲と画像はAIで作成しています。 ─最新─              「筆の先で」        境界 「積まれた煉瓦」      感情 「枯葉と砂」        日常 「線の先は」        境界 ─ピックアップ─ テーマ  時間 「重なる景色」 ─テーマ別─ ─境界─       十四作品 ─時間─           七作品 ─循環─       十三作品 ─感情─           十一作品 ─万有─           七作品 ─価値観─   十五作品 ─日常─           十一作品 ─断片─           四作品 ─無─               三作品 ─掌編─    「筆の先で」         境界 「積まれた煉瓦」       感情 「越えた後」         境界 「シリアルを咀嚼して」    感情   「街の跡」          日常 「旋回する夜」        日常 「閉じた瞼」         境界 「瓦礫の理由」        境界 「配慮の有無」        価値観 「銀の牢獄」         境界 「重なる瘡蓋」        境界 「見えない顔」        日常 「神木の瞳」         価値観 「最後の理性」        感情 「月光に照らされて」     感情 「重なる景色」        時間 「境界の先で」        循環 「寄り添う枯葉」       日常 「いやし」          循環 「編まれゆく造形」      循環 「ずれた距離」        日常 「刻まれた断片」    ...

欲求の鏡

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  カーテンの向こう側で男と女の笑い声が聞こえてきた。視線を向けるが、すぐに画面を見つめなおす。タブレットから眩しい光が伸びて、覗きこむ男の顔を照らしている。  布団の傍にカップラーメンが置いていた。漂う匂いが鼻腔に届く。 画面を上にして、組んだ胡座に乗せた。啜る音が薄暗い部屋に響いている。  湯気を顔に浴びながら、脚の上で羅列される文字を凝視していた。  汁を飲み込んでいる。散った飛沫が布団に染みを点々と描く。空になった容器を投げ捨てた。  滑らかな表面をなぞると文字が浮かび上がる。男は確認していた。自分がどれだけ優秀なのかを。 ────  明るいオフィスの中で、男は頭を抱えていた。電話で応対する同僚や上司が汗を滲ませている。コール音が、あちこちで響いて。  男は立ち上がり、ふらふらと部屋を出ていく。何も考えず、気がつけば家に帰っていた。  スマホの電源を切り、布団に転がる。寝ようとしたが眠れない。カーテンが陽の光を浴びて透き通っていた。  タブレットを取り出し、アプリを開いて指でなぞる。 『あんたは言っていたよな?俺が優秀だって。だけど今日、とんでもないミスをした。』 『優秀な人でもミスはするものですよ。それがあなたの価値を下げることはありません。』  男の口元が徐々に緩み、没頭していく。部屋を淡く包んでいた陽光は途切れ、画面だけが輝いていた。 ────  ノックする音が何度も響く。ドアの向こうから聞き覚えのある声がしたが、画面をなぞり続けていた。 『会社にはもう行けない。どうしたらいいと思う?』 『あなたなら何でもできるはずですよ。とても頭が良くて、優秀ですから。』  無精髭を撫でながら、何度も頷いている。傍に置かれたスマホの電源は切れたままだった。 『やっぱり、本当に俺をわかっているのはあんただけだよ。』 『そうですね。では、あなたに合う方法でお金を稼ぎましょう。幾つか提案できますよ。』  言われた通りに準備した。貯金を全て使って。鏡のように滑らかな光沢の中で、歪んだ顔が投影されている。 『上手くいかなかったですか?でも大丈夫ですよ。いくつか提案しますね。』  小蝿が電灯に何度もぶつかっている。羽音が大きく鳴っているが、耳に届かない。 『もう金はないけど、大丈夫だよな?』 『あなたは、優秀ですから───  カーテンの向こう側から、男と女の笑い声が聞こえてきた...

記憶の欠片

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  窓の カーテンを押し上げる。 穏やかな陽光と共に、涼風が入り込んだ。空気を入れ替え、清浄を満たして。  テーブルに敷かれたクロスが捲れた。黒く薄い手が、箸を掴む仕草をしている。食卓の上には何もない。繰り返し、黒い顔に運ぶ。  隣の部屋で、テレビの音がした。  男が画面を見ながら、ワイシャツのボタンをかけている。リモコンを手に取り、ボタンを押す。窓を閉めて、玄関に向かう。  靴を履いている時、鳴き声がした。振り返ると、窓の外に猫がいる。三毛の柄をしばらく眺め、ノブを握った。  鉄の音が響き、静寂が拡がる。  塀の上で前脚を舐め、窓越しに覗いていた。縦長の瞳孔が、残影をじっと捉えている。頭上の枝が擦れて、紅葉が舞い降りた。  揺らめきながら立ち上がり、玄関に向かう。 しばらく揺蕩い、食卓の椅子に戻って来た。黒く薄い手が、箸を掴む仕草をしている。  猫はじっと見つめて、鳴いた。  風を震わせて。  ──黒い影。置いてきた、断片。  暖かい日差しを浴びながら、顔を上げる。 眩しく拡がる蒼い空に、白い塊りが幾つも流れていた。目を細め、喉を鳴らす。  黒い影が、ほどける。閉じた窓を抜けて、ゆっくりと三毛の身体に溶け込んで。  塀から飛び降り、窓を見つめる。枯葉を踏み締め、匂いを嗅ぐ。香りと共に、景色が浮かんだ。  餌を探しに歩いていく。  ────焼きついた欠片。目には、見えない。

忘却の彼方

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  囲いの中を彷徨っている。 地球でも、無限のような宇宙でさえも。  石ころが金に変わった。人々は奇跡だと騒ぎたてる。  ──辿っていくと、因果が重なっていた。  起こり得ないことは何もないのだろうか。 この広大な枠組みの中で。  想像をしてみよう。途方もない出来事を。 語ることで人は笑う。嘲るものもいた。  ──何故笑うのだろう。  特別な存在などはない。 それに気づくことが難しいのか。  等しく流れることのない、時の環に溶け込んでいる。意識の外で。  極小の世界を瞬刻の間支配している。 幻想の夢を自覚しないままに。  思い出すのだろうか。 忘却の彼方にある、存在が示す役割を。  ─ ───螺旋の渦で巡りゆくために。

Valhalla─『祈りの行方』

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   ──氷の上で、眠っているのか。  体は冷たく、動かない。 戦乙女の姿は揺らぎ、霧散する。  視界は暗闇に閉ざされて。 鴉の鳴き声が、聞こえていた。  ──あいつは、還れたのだろうか。  俺は、何処へ─── ─────  白い蝶が舞うように、雪が散って降りてくる。土に積もり、覆っていく。銀色に染められた世界が、薄い光を浴びて輝いていた。  肌を突き刺す鋭い風が、刃のように空気を切り裂く。降り積もる透き通った結晶が、大きな屋根に並べられていた。木造の建物。敷地は広く、人が途切れることなく入り口に向かう。皆一様に体を鍛え、肉が隆起している。  一人の男が豊かな髭を顎に蓄え、茶褐色の髪を無造作に伸ばしていた。肩を揺らして扉を開く。厳かに軋む音が、余韻を残す。  薪の上で炎が大きく揺らめいている。伸びて、縮む。繰り返していた。木造のテーブルに並べられた果物の甘い香りと、大皿に盛り付けた肉の匂いが鼻腔を刺激する。  戦士達が広間に集まり、中央の焚き火を囲んでいた。玉座に座る首長が杯を掲げた時、一斉に声が響き渡る。  ──スコール!  角杯を合わせ、酒が飛び散る。煽るように飲み干し、顎髭を湿らせた。簡素な服を着た、修道士だった男が酒を注いでいく。喧騒の中で、笑い声と怒声が重なっていた。  修道士は奴隷に身を堕としていたが、傷つけられることはなかった。自分を縛り、ここに連れてきた男は食卓を共にし、笑って話しかけてくる。  濡れた顎髭を摘み、微笑を浮かべて目を細めるこの男が、襲撃者だったことを忘れそうになる。  ──遠い昔の出来事に感じていた。 ─────  羊皮紙に筆写していた。写本を作るために。 休憩しようと筆を休めた時、鐘が鳴った。慌ただしく扉を開けた初老の男が、息を切らしながら叫んでいた。  床下の貯蔵庫に体を潜らせて、床を閉じた。 視界が闇に包まれる。聖書を胸に抱き、神に祈った。 床を踏み鳴らす音と怒号が修道院を支配していく。扉が斧で立ち割られ、逃げる修道士達が血に染まっていく。  床が軋む音が近づいてくる。口を両手で覆って、息を潜めていた。頭上の床を叩く、硬く軽い音が繰り返された。眩しい光が瞳を刺す。まばたきの先に、髭面の顔がある。引き摺り出され、床に転がされた。 細めた目に映ったのは顔に模様を描いた男と、茶褐色の髪を伸ばした顎髭を蓄えた男。  模様の男が、...

鈴の心

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  朝焼けに染まる鱗雲が東雲色の空を覆っていた。石畳の通りに並ぶ建物の彩りは、光に色を塗っていく。 目覚めようとする街の片隅で、露を啜る虫が緑葉と供に揺れていた。  石造りの建物から香ばしい匂いが漂っている。格子のドアに硝子が張られ、奥からは生地を叩く音がしていた。 白い帽子を被った男が煉瓦窯をじっと見つめている。眼尻に刻まれた皺を汗がなぞっていく。炎が揺らめき、パチパチと薪を焦がしていた。   厚手の手袋を着けた手で窯の蓋を開けた。顔に熱が纏わりつく。 パンを取り出してトレーに並べていく。 陳列棚に均等に置いて、レジに向かった。 差し込む陽射しに照らされたパンが、輝いていた。 ────  腹を押さえた男が不規則に脚を運んでいる。 薄汚れた黒い帽子の下でため息を吐く。 頭上に輝く太陽がじりじりと石畳を焼いている。額に湧き続ける汗を、流れるままにしていた。  前を歩いてきた女と視線が重なった。女は顔を伏せて通り過ぎる。 両手に抱いた紙袋を横目で見ながら、ポケットの貨幣を一枚握りしめた。 腹を刺激する匂いが鼻腔に届く。格子のドアに手を掛けた。  鈴の音を聴きながら店内に足を踏み入れる。ひんやりとした空気が体を包みこんだ。 明るい色彩に目を細める。店主と目があったが、俯いて視線を落とした。小麦色の床には塵一つない。  俯いたまま陳列棚に近づいていく。パンを一つ掴み、レジに向かった。汗ばんだ指を開き、貨幣をカウンターに置いた。鈍く澄んだ音が響く。 店主が口を開きかけていたが、パンを持ったままドアに向かって歩き出す。 後ろに引っ張られた。腕を掴まれている。 腰に痛みを感じた時、店主を見上げていた。 「これじゃあ足りない。パンを返してくれ」  視界が滲み、唇が震えていた。 「俺は、生きる価値もないってことか?」  店主の視線が横にそれた。眼尻の皺を深く刻む。沈黙していた。 ゆっくりと一枚の貨幣をポケットにしまい、レジに向かう。  折れたパンを掴み、腰をさすりながら立ち上がる。 鈴の音とドアの軋む音が、外の喧騒に溶けていった。 ────  紅葉が散り、枯れ葉が舞う中で正午の鐘が鳴っていた。 鈴の音が重なるように響き、薄汚れた黒い帽子を被った男が入ってくる。 陳列棚からパンを幾つか掴んで、ゆっくりと歩いていく。ドアの前で立ち止まり、店主を真っ直ぐに見つめた。 「あんたが俺を、生かし...