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月光に照らされて



引き摺っていた。跡を残しながら。湿った音がする。柔らかい土に、靴底が沈んで。木々がざわめき、枝がしなる。


目を細め、視線を向けた。道路の傍。崖の下から反射する、街明かりへ。


手を擦り、息をかける。乾いた冷たい風が、剥き出しの顔を突き刺す。ロープを握り、また引き摺る。


毛布で何重にも包んだ。黒いゴミ袋を幾つも重ねた。その、物体を。


頭皮から滲む。吹き出し、滴る汗。

ビニールが擦れ、囁く。視線を向け、口角が上がる。歯が覗いた。


──エンジンの唸り声。


立ち止まり、息を潜めた。通り過ぎ、ライトが遠ざかる。


暗闇を取り戻した山道。大きく息を吐いて、握った手に力を込めた。白い靄が漂い、消える。


「重いんだな。お前。」


ビニールが擦れ、囁く。ロープを離し、じっと見つめた。


「お前が悪いんだよ。」


満月が照らす。影を、映して。


───

窓から、月光が差し込む。顔を上げ、眺めていた。靴音が聞こえる。下を覗くと、女が歩いて来た。見上げて、手を振っている。眉間に皺が寄り、言葉を放つ。


「おせーよ。」


舌打ちして、告げる。


「早く上がってこい。」


女は微笑んでいた。小走りに、マンションの入り口に吸い込まれる。


立ち上がり、珈琲を注ぐ。二口目にインターホンが鳴った。テーブルに置いてドアに向かう。僅かに軋み、開く。


「ごめんね。持ってきたよ。」


女が封筒を差し出す。掴み取り、確認する。三枚の紙幣。女は微笑んでいる。


「遅くなってこれか。」


「足りない?じゃあ次は、もっと持って来るね。」


言いながら男に抱きつく。咄嗟に女を突き飛ばした。シャツに紅い跡が残る。


「......お前、気持ち悪いな。」


口端に滲む、紅。笑顔のまま、首を傾げた。


「あなたは、黙ってたほうが素敵だと思うよ。」


「もういい。帰れや。」


ゆっくりと鞄を探る女──表情が、消えた。

女の右腕が伸びてくる。握ったものが、腹に吸い込まれて。女が、笑う。男の両膝が床に触れた。左手を口に捩じ込んで、何度も繰り返す。


「お前は、黙ってた方が素敵。」


暗く滲む、視界。

哄笑が響く。生臭い、紅が拡がる。


────満月が女を照らす。ただ、眺めていた。

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