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変わらない日常


 街灯の光に虫が何度もぶつかっていた。疑いもなく繰り返される。

 吐き出された煙が、灯りに吸い込まれて霧散した。視線を前に向けて歩き出す。地面を踏むたびに、湿った音がしていた。


 火が水溜りに触れ、煙草が沈んでいく。葉の先から水滴が一つこぼれて、ハットの鍔に向かう。落ちた先に、黒い染みが広がっていく。男がコートの内ポケットを探ると、指先に冷たく硬いものが触れた。立ち止まって壁に背を預ける。


 柄を握って刃を眺めていた。何度洗っても表面が真紅に包まれているように見える。父親から貰ったものだった。その血も、染み込んでいる。


 ヒールの音が近づいてきていた。左手を壁に添えて、息を殺す。素早く首を掴んでいた。女の目が見開かれ、唇が震えるように動いている。右手を前に突き出し、捻った。何度も繰り返す。


 右手を引いて首から手を離すと、女はゆっくりと前に倒れた。濡れたナイフを振る。刃から赤い液体が散らばって、水溜りに溶けていく。


 車のエンジン音が近づいてきていた。


────

 エンジンを切って、ドアを開ける。綺麗にラッピングされた箱を右手で掴んだ。目を細めて口が緩む。ドアを閉める音が鈍く反響していた。


 視界の端に、街灯へ向かっていく虫が映る。壁沿いに歩いていくと、視線の先にヒールが転がっていた。箱を持つ手が汗ばんでくる。ゆっくりと、角を曲がった。


 水溜りの上に箱が跳ねて、歪んだ。箱が黒く染まっていく。


 両手で顔を覆っていた。指の隙間の先で、娘が血溜まりに倒れているのが見える。震える腕を伸ばし、手首にそっと触れた。脈打つ流れを感じられない。

濁った目が、虚空を見つめている。


 叫んでいた。唇には泡が浮かぶ。


 血走った目で周囲を見渡す。壁の途切れで視線が止まる。その先にはハットを被った男がニヤついていた。ゆっくりと歩いてくる。ナイフを揺らして、口を歪めながら。


 震えが止まり、拳を握りしめる。踏みしめた下で水溜りが激しく飛び散った。脇腹に痛みを感じたが、拳を振り抜く。


 ハットが宙を舞う。脇腹のナイフを引き抜き、男の腹を何度も刺した。
男は声を出さずに笑っている。


「......俺の役目が終わっただけだ」


 何度も、刺した。


「そうだ。......お前の役目は、それだ」


 男は動かない。目を見開いたまま。口元には微笑が残っていた。脇腹から流れる血が男の血と混ざり合っていく。


 街灯の光に虫がぶつかっていた。疑いもなく、何度も。


 ────何も、変わっていない。


























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