作品アーカイブ(目次)
ざわざわと葉が擦れる音が、優しく周囲を包み込んでいた。
降りてくる光は強く、目を細めなければ上を見ることができない。
顎から滑り落ちる雫が連なり、シャツを濡らす。手に持ったタオルで顔を撫でた。
早足で歩いているが、その足取りに迷いはない。
男は被ったキャップを脱ぎ、ゆっくりと歩く。
すぐ目の前には、胸あたりまである石が静かに佇んでいた。
葉が一枚、石の上に乗っている。伸びた草が時折揺れて表面に触れる。
石の前に座り、しばらく眺めていた。
風に運ばれた砂埃がかかる。
シャツについた砂を軽く払うが、石は変わらずそこにある。
右手を伸ばして撫でてみると、暖かかった。
左手を胸に添える。
──俺と変わらないよな。
足を解いて、立ち上がる。来た道に向き直り、歩き出した。
初めてこの石を見た時、雪が降っていた。
白く包まれた様子を見て、払ってやった。
冷たかったのを覚えている。
でも、喜んだような気がしたんだ。
桃色の花びらが舞い散る時、石の上に何枚か乗っていたのを覚えている。
似合ってたし、払わずにそのままにした。
お互いに夕陽を浴びながら座って。
────
暗闇を掻き消すように太陽が昇る。その光が窓越しに顔を照らしていた。
目を細めながら、ゆっくりと起き上がる。
窓に近づいて外を見ると、街が目覚め始めているのを感じる。
朝食を摂り、手早く着替えてカバンを掴んだ。
Yシャツが肌に張り付く。顔を拭いながら、何軒も回る。笑顔を作って、何度も同じ説明を繰り返す。
強く言葉を吐きかけられていた。乾いた音が重く響いて、ドアが閉じられる。
自然とあの場所に歩き始めていた。
────
足の力が抜けて、崩れ落ちるように膝をついた。
石が砕けていた。バラバラになった破片が散らばっている。
震える手で一つ拾った。
小さかったが、温もりを感じる。他の破片も拾い、眺めている。
握りしめて、微笑んだ。
「そうだよ。......子供を産んだようなものじゃないか。」
葉のざわめきの下、樹皮にしがみついた幼虫の背が割れていた。
───関係性は、変わらない。
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